20年以上前のことをふと思い出す。

 

今でも思い出します。20年以上前、僕が学生の時のことです。3次元CAD・CAMとCNCフライスで漆の素地を作っていた時です。突然、「ちょっと、見せて貰うよ!」と部屋に大学の学長が入ってきたことがありました。学長は美術の専門家ではありませんでしたが、総理大臣の諮問機関、経済諮問会議のメンバーでした。そんな人が一学生である僕に何の用かは不明でしたが、とにかく学長と二人で話をするという状況になりました。当時の漆工芸界では現代のテクノロジーを使いこなす人は珍しかったのですが、学長がわざわざ来て話を聞かせてほしいというほどのことでもないと思ったので、かなりハテナな感じはしたのですが、聞かれたことに淡々と答えたように記憶しています。

一通り説明が終わったところで、学長が「ところで君のオリジナリティーは何?」と聞いてきました。なるほど、とてもいい質問だと思いました。もちろん学長が僕から何を聞き出したいかも分かりました。「既存のテクノロジーを使って何かを作るのは他のジャンルでは当たり前ことで、漆工芸の世界が遅れているだけ」ということ、「作りたいものがあるがその方法を模索している」ということ、「オリジナリティーを作品以外で主張するつもりはないが、今だそんな作品をつくれていない」ことを伝えました。
しばらく沈黙し、「君はこの大学では珍しく、うーん、なかなか優秀だね!」と冗談交じりで言って部屋を出ていきました。後日、学長が僕のことろに来た目的は分かりましたが、あまり関係がないのでここでは触れません。

この時の学長との数分の会話は今でも自分の考えの礎になっています。これからもモノづくりの本質を理解したう上で制作を続けていきたいと思っています。そこには「伝統の…」とか「現代の…」とか、そういうのは関係ありません。作品がどうかが重要なのであって、他のことはどうでもいいことです。
漆工芸界は斜陽産業にありがちな偽物だらけの世界を未だ抜け出していません。ただ、それとは別にメディアの発達で、良いものがちゃんと評価される時代になりつつあるとは思っています。もう少し時間が掛かるかも知れませんが、ちゃんとした評価の土台ができれば、もう少し優秀な人材が入って来るようになるのではないかと思ってます。

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