去年あたりから過去に例のないような材料の使い方を試しています。過去にないということは間違っていることが多いのですが、環境が違えば必ずしもそのようなこともないと考えています。例えば金粉が無限にあれば、今までとは全く違った蒔絵作品が出来るかもしれないし、要は、環境がプラスに変化すればそのようなこともあるということです。現代人の感覚だから美しく感じるとか、多分そういうのは正解ではないと思いますが、恐らく過去の工人がやりたくても出来なかったと思われることで、現代なら出来ることを考えれば、例えそれが過去に類例がなくても正解であることはありうるだろうと思います。
漆工芸に関して何か知りたいことがあって調べてみても、衰退分野にありがちな、ただただ昔の文献を掘り返すだけの価値のない論文がほとんどです。その分野の発展に何ら寄与していません。作る側も含めて関わっている人のほとんどが放って置けば自然消滅してしまうようなレベルでしかないので、天然記念物みたいにお上から落ちてくるお金で保護されているだけです。現在の漆工芸の世界は、本来淘汰を受けるべきものが残ってしまい、少し混沌としてしまっているような気がします。周りを見てマネばかりしている人も多いですが、そんな人も含めていずれは泡沫のように消えていくのではないでしょうか。
慎重に自分の作品の方向性を決めています。20代後半から一貫して螺鈿の研究を続けてきました。貝殻の組成や加工方法、なぜ漆工芸において螺鈿が起こり存続したか、それによって何が出来るか、どのように材料を扱うべきか、などすべてを自分自身で考えてきました。
もちろん不正解もあるとは思いますが、自分がそのような不安に駆られるときは、市場や購入してくださる方の意見を聞くようにしています。市場という不特定多数で構成されている世界では、必ず価値の低いものは淘汰を受けます。また、お金を払う方はリスクを負うので、鑑賞眼が非常に厳しいです。そのような中で生き残れる作品をつくらないといけません。自分が考えていることが正しいと思えば、強く一歩を踏み出していく強さが必要だと思っています。