「伝統」とか。

 

先日、テレビの収録がありました。インタビューがあったのですが、大雪の直後にも関わらず、音声収録の関係で石油ストーブやエアコンを切らなくてはならず、室内と言えども、とても寒い中での撮影でした。
最近は制作ばかりで忙しく、あまり自分自身について話す機会もなかったので、恐らく多くの質問は世間一般的には当たり前の質問なのでしょうが、とても答えるのが難しかったし、またその分、自分や仕事について考えるいい機会にもなりました。

漆工芸に関わる人が世間から期待されていることは、「日本の伝統を守る」みたいなことなのでしょうが、僕には別にそういうのはありません。自分は美しいものを作りたいだけで、伝統とかはどうでもいいです。
漆工芸の世界にありがちな「〇代目、○○」とか、「創業○○何年」とか、「代々受け継がれてきた○○」とか、「○○先生直伝の○○」とか、別に自分が初代だから言うのではありませんが、現代の科学技術があれば、ほとんどすべての事が簡単に解明できるので、はっきり言ってそういうのは無意味です。ネットだけでも多くの科学論文を閲覧できるし、動画サイトでも大学レベルの数学や物理学を学ぶこともできます。高性能な顕微鏡や実験器具、あらゆる材料や道具が簡単に手に入ります。そんな世の中で真に価値のあるものを作るのはとても難しいです。「江戸時代から変わらぬ製法」では現代において価値あるものを作るのはほぼ不可能です。そして「伝統」を笠に着ているジャンルにおいて、その人たち以外やる人がいないジャンルは、そもそもやる価値がないジャンルです。その人たちがそれを選ぶのも、その人たちにとっての最良が「〇代目、○○」になることだからです。新たな価値を作り出す自信がなければ「○○先生直伝の○○」と言っていた方が楽に決まっています。
もう一つ最近思うことは、「日本の伝統工芸は世界で評価されている」という幻想についてです。優れた芸術はどこでも評価されますが、一般的に言う「日本の伝統工芸」は評価されるレベルに達していません。特に漆工芸は。もちろん世界で評価されている作家はいますが、それはその人の作品が素晴らしいからで、伝統工芸であるか否かは無関係です。
たった一回しかない人生をかけてやっていることを、「伝統」とか「世界で」とか、言葉で胡麻化しながらやっていくのは自分自身辛いので、せめて正直に生きていきたいと思います。

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