20歳くらいのとき正則分割で模様を描くことにはまりました。正則分割という言葉はあまり馴染みのない言葉でしょうが、面倒なので詳しい説明は省きます。一番有名なのはM.C.エッシャーという人の作品ですが、もっとすごいのが描けるんじゃない?みたいなのりで考え出したら本当にすごいのが描けました。人生の中でもっともキレていた時期の頭脳と当時最先端のCADを使用して半年かけて作図しました。当時、東大在学中の兄にもいろいろアドバイスをもらったりもしました。その図案で蒔絵の棚を作ったことがあるのですが、漆の技術が稚拙だったので大したものは出来ませんでした。当時かなりの材料費をかけて作ったので、今考えるととても悔やまれます。
それはそれとして、その過程でいろいろ考えることがありました。漆工芸の場合で考えると、模様の種類とそれを描く対象である器物の形状の組み合わせが限定されているということです。たとえば、正方形も正六角形も平面は充填できますが、立方体の表面を充填出来るのは正方形だけです。模様をマッピングするという面から実践的に言うと、立方体と同じ位相の立体なら良いのですが。たとえばドーナツ型と同じ位相の立体なら六角形でも表面を充填できます。合同な図形で平面を隙間なく充填できる正則分割のパターンは17通りほどありますが、漆工芸の分野でドーナツ型の器を作るのは稀なので、使える模様のパターンがかなり限られてきます。また、具象的な図像で正則分割した模様を作ろうとすると、同じ長さの辺でも方向という新たな概念が加わり、頭の中だけで考えるには要素が多すぎ、常に筆記用具が必要となり、理想を言うとCADもあると便利です。このように考えられる環境が限定されるので、ますます面倒になり、気付いたら半年が過ぎていたという感じでした。模様自体は漆芸品ではありませんが、僕の人生最高の傑作といえばこの正則分割の模様かもしれません。
その図案はいまだに手元にあり、それで再度作品を作ることも出来ます。今はあまり正則分割のような模様に興味はありませんし、材料の準備も出来ていませんが、近いうちに挑戦しようと思っています。若き日の自分との合作です。